嘘とワンダーランド

わたしがにらんでも、眼鏡越しの瞳は変わらなかった。

その瞳からは、むしろ余裕が感じられた。

本当に、課長は一体何を考えているんだろう?

「今日は振り払わないんだな」

そう言った課長に、わたしは自分が彼の腕の中にいることを思い出した。

慌てて振り払おうとしたら、
「逃がす訳ないだろ」

「――ッ…」

背中に課長の両手が回ってきたかと思ったら、、抱きしめられた。

離して欲しい。

振り払いたい。

そう思うのは簡単なことだけど、躰が動かなかった。

心臓がドキドキと、早鐘を打っている。

「――か、ちょ…」

呟くように名前を呼んだわたしに、
「“正文”だろ?

若菜」

課長の顔が近づいてきた。