嘘とワンダーランド

「えー、そんな訳…ああ、本当だったみたいだな」

視線を向けると、千沙さんはそこにいなかった。

そこにいるのが課長１人だけだったことに、わたしはホッと胸をなで下ろした。

よかった、本当に偶然だった…。

心の中で呟いたら、
「若菜？」

京やんに名前を呼ばれた。

「ああ、そうだったね。

行こうか？」

「わっ、おい…」

京やんの腕を引くと、その場から逃げるように定食屋へと足を向かわせた。

課長がわたしたちに気づいているのかいないのか、そんなことはよくわからないけど今はこの場から立ち去りたかった。

何より、千沙さんと一緒にいるところを見てしまった後で課長と顔をあわせる勇気がわたしの中にはなかった。