「お母さん」
台所で、親戚の人たちとせわしなく動いていたお母さんは、そらの声に手を止めて、振り返りました。
「どうしたの」
「つまんない」
「みんなと遊ばないの?」
そらは思わず、黙ってしまいました。お母さんは困ったように眉を下げて、そらの前にしゃがみ込みます。
「そら。お母さんも忙しいから、みんなと遊んできなさい」
「なんで、そらにはきょうだいがいないの?」
そらがそう言うと、お母さんはハッと胸を突かれたような顔をしました。そして気まずそうに目を伏せます。
そらは、じっとお母さんを見ていました。けれど、お母さんは静かな声で、もう一度「そら」と呼びました。
「みんなと、遊んでらっしゃい」
そらは、返事をにごしたお母さんに腹が立ちました。
「もういい、そら、ひとりで遊ぶっ」
そう怒鳴って、そらはおばあちゃんの家を出ました。
夏の気温が、ぶわりとそらの身体を包みます。ムッとした顔のまま、山と海に囲まれた田舎道を歩き始めました。あんまり遠くへ行くと、おばあちゃんの家へ帰ってこれなくなってしまうかもしれないので、気をつけなくてはいけません。



