「世の中さ、馬鹿ばっかなのはなんで何だ」

世の中を語りたがるお年頃らしい知り合いの男が言った。

氷が溶けて薄くなったジンジャーエールをさっきからずっとかき混ぜているのは何でなんだ?

「そう思うからそう見えるだけなんじゃないか」

適当なことを適当な調子で返せば、男ーー坂島は猫目をすっとすがめた。

その間も、グラスをかき混ぜる手は休めない。

「金があれば幸せか? 善人ヅラした金持ちは何で豪邸に住むのをやめない。 政治家の汚職事件が絶えないのはなぜだ? はじめは誰だって信念を持ってるはずなのに」

「金があれば広い家に住みたいと思うのはある意味人情だろう。政治家だって、何も全員が汚いわけじゃない。汚いことしたやつだって、信念がなくなったわけじゃないはずだ。お金大好きと『お国の為』は同居可能さ」

大して頭もはたらかせず、つらつらと言った言葉は、我ながら良い人感満載だった。

うん、いい感じ。テキトーにいい人。

これが僕の信念。

坂島のジンジャーエールはいよいよ薄くなり、見た目にもまずそうに見えたが、手は止まらない。

「あのさぁ」

「うん?」

「さっきから何でずっとかき混ぜてんの」

金や政治よりずっと気になるんだが。

坂島は約30分ぶりくらいに笑顔を見せた。

愛嬌のある笑顔だ。

偏見に満ちた議論をしょっちゅう繰り出す男には見えない。

「クセ。目の前にグラスがあるとかき混ぜたくなる」

「変なクセ」

「そうかな」