いつもの伊澄くんではない。



いつものおちゃらけてる伊澄くんの面影は、どこにもない。



「諦めるって何…?」



「見苦しいんすよ。先輩のそのバカみたいな強がり」




何かが弾けたかのように、伊澄くんは次々と言葉を発した。



森の中を吹き抜ける風に2人の髪がなびく。



「強がってなんか…」



「じゃあ何でいつもあの人の背中ばっか追ってんすか?
何であの人ばっか意識してんすか?
ごまかして幸せなんすか?」



伊澄くんは、今まで見たことのないような、寂しいとも悲しいとも言えない顔をして。



私は言い返す言葉がなかった。




「腹立つんですよ。先輩のそういうとこ。…好きな人と結ばれない悲劇のヒロインでも演じてるつもりっすか?」



いつもよりトゲのある、私に向けられた本当の伊澄くんの言葉。



心を刺すには、充分すぎた。