だけど、人生はなかなかうまくいかないもので、その幸せの時間をかき消すかのようにシンちゃんが言った。


「実は俺、東京に移動になりそうなんだ。ついてきてくれる?」

私は驚いて、シンチャンの顔を見るのが精一杯だった。

「知佳が、今、仕事頑張ってるの分かってるよ。でもやめないといけない。向こうに行ったら、こっちになかなか帰ってこれない」
私がどうにか、小さく頷くのを見て、シンチャンは続ける。

シンチャンも不安なのがわかる。


「でも……。それでも、知佳のこと好きだから、連れて行きたいんだ。向こうで仕事したいなら、生活が落ち着いたら仕事すればいい。」

いつになく真剣なシンちゃんの表情にあたしは動けずにいた。



真剣に言っているシンちゃんの横で、頭の中はフリーズしていた。


この人と結婚すれば、あたしは幸せになれることは分かっている。

普通の幸せを手に入れることが出来ると分かっていた。

「急に、そんなこと言われても。」


それだけ言うと、涙の方が先に溢れてきてしまった。

「わかってる。だから、考えて欲しい。」


そう言ってシンちゃんは黙っていた。