さようなら先生。


どれだけ時間がたったんだろう。

一瞬だったのかもしれなかったけれど、ものすごく長い時間のように感じていた。



先生の唇が、あたしの唇から離れた。

「もう帰ろうか……」
「はい。」


先生はそう静かに言って、車のエンジンをかけた。


エンジンをかける先生の横顔を見ると、先生が鼻をすすっていた。

「先生……?」

あたしが心配して見ていることに気付くと先生は、

「ごめん、ごめん。ちょっと色々思い出した。」

そう言って笑って見せた。


あたしも泣きだしたかったけれど、下唇を噛みしめてこらえた。



それからあたしたちは空港までの帰り道、一言も話すことはなかった。