「お願いします、アタシ尾上さんがいなかったら撮影現場に辿りつけない気がします」

尾上さんは考えるように顔の半分を手の平で覆っていたが、ふうっと息をついた。

「いいよ。当日の朝、家まで迎えに行く」


ほっとしてアタシはアパートまでの目印を教える。

「そばにいったら連絡するから」と携帯の番号を交換する。



あれ、そういえば愛ちゃん何か言ってなかったっけ…
ほんの数時間の出来事なのに、体に流れるお酒はアタシの記憶をあいまいにして、警戒心も緩めていく。

転がるように進んでいく話のなかで、アタシの心にはほんのわずかな違和感が差し込まれる。


何だかわからないけれど、刺のようにちくりとする。

後で考えたら、その時はいっぱいいっぱいで、よくわかっていなかった。




きちんとわかるのは撮影日当日を迎えてからだった。