若鮎を載せた皿を下に置いて、障子の前でおとないを入れる。


「どうぞ。勝次さん」

からりと障子を開けると、裕也と髪の綺麗な女性が食卓を挟んでこちらを見た。

「やっぱ勝次さんの飯、最高」



上機嫌の裕也の前に鮎の皿を置くと、手の平を合わせて舌なめずりをした。



「……それはどうも。裕也、お前とは長い付き合いだけど、こういう使い方は止してくれ」



鮎に伸ばした裕也の手が止まる。



「なんで、いきなり」

「話題づくりか本気かは知らないが、女性がらみでこの店を利用するのは止してくれ。写真や取材は困るんでね」

「ひどいよ勝次さん…」

鮎に伸びた手が力無く下がる。


「勝次さんとはこの店を構えた時、俺が大学生の頃からの付き合いだし、今までそんなこと言わなかったじゃないか」

「大学で演劇をかじってるガキとは違う。お前、テレビにも顔出してるじゃないか」



あいた皿を手に下がろうとすれば、今まで口をつぐんでいた女が言葉をはっした。



「大将のお気持ちもよく解りますが、彼のプライベートなことですからお許しいただけませんか。芸能人になったことは仕方ないことですし、今もこのお店を大事にして贔屓にしている訳ですから」

「俺はね、裕也のことは弟分くらいに思ってるよ。個人的なことだから敢えて言ったのさ」

くるりと部屋に向き直り、お辞儀をしてから障子を閉める。