「それじゃ未也ちゃんのために腕を振るわないとね」


「はい。親子丼ですけどね。いつか夜のゴハンも食べられるようになりますね」



「いつでもおいで。気にしなくていいから」



そうは言っても、夜のお客様とは格が違う。背伸びしたり、無理しなくても良くなるまでは夜に予約を取ることはしないだろう。

カウンターに腰かけて厨房を覗くと、食材を下準備している途中のようだった。


「あれっ…お客様?」



目敏く見つけたのを、店長は顔の前で手を振る。



「未也ちゃんは、気にしなくっていいから。上にいるのは、勝手に来た奴だからね。生意気にも季節ごとに、食事に来やがる。この時期は若鮎だからね、用意してやってるだけ」

「顔は嫌がってませんよ?」

「腐れ縁てやつ」



またにかっと笑う。それからアタシに親子丼を作ってくれながら鮎を焼いた。

いい香りの鮎を、笹を敷いた大振りの皿に載せて上に運んでいった。

どんなお客さんなんだろう。やっぱり、芸能人かな。ぱきん、と割り箸を割りながら考える。

そんなことも、あつあつ出来立ての親子丼を頬張ったら忘れてしまった。



アタシはつくづく単純なんだ。