「………そうか任せる。それはやっぱり渡辺のアパート近くだよね?」



「そうですけど……?」



「悪いけど俺、腹減って死にそうなんだよ。近場で何か食べさせて」



顔の前で片手を上げて、拝むように言った。そして言うなり尾上さんのお腹がなった。お昼なんてとっくに過ぎていて、アタシもお腹がすいていたのに気づいた。



「仕方ないですよね。じゃあ尾上さんの奢りですね」

「ひでぇな。車出したのに、まだたかるか」

「アタシが絶対美味しいって自信を持って言えるのは、この鯛焼きくらいなんです!だから言ったのに…」

「わかったよ。いいよ奢りで」




最後にアタシは振り返ってもう一度だけ撮影現場を見た。

もう一度来たくても、どうやって来たらいいかわからないからだ。

高遠さんは芸能人で、アタシは一般人だけど、さっきまではこの場所でそんな垣根なんてなく話ができた。


次に会えても、姿を見れるだけかもしれない……



だから、はっきりと胸にも目にも焼き付けておきたかった。

深呼吸をして目を閉じる。


そしてアタシは目を開けて歩き出した。