「未也」

聞き慣れた声に顔を上げると、取り乱した遥香が人混みから身を乗り出してアタシを見ていた。

その途端に、アタシのまわりに雑音が戻ってきた。



彼も不思議な名前を聞いたように、アタシの顔を見た。確かに友達にも居ない名前だし…変わってる。

ざわざわした雑踏を掻き分けて遥香がやって来ると、彼はにこっと笑って立ち上がった。


「足、心配だったけど友達がいるなら大丈夫だね」

「はい。ありがとうございました」


お礼を言うアタシに、いいよと手を振って、何事もなかったように去っていってしまった。

「もう…気がついたら居なくて、捜したのよ?」

まだぼんやり彼の後を見送っていたアタシのほうを見て、遥香が心配そうに眉を寄せる。






「運命の人だ!」

初めて会った人なのに、アタシの心の中は彼でいっぱいになっていた。