それは、3月の初め


肌寒い夜だった




「何もこんなに早く

ニューヨークに行かなくてもいいのに……」



鍋を箸でつつきながら、具材を取り分けるアキさんは言った



「予備のスクールに通うんだって
いってるでしょ

夏の入学式までに英語を完璧にしなくちゃね」



僕は冷えたサイダーのペットボトルのキャップを外し、

コップに注いだ




「拓海と2人の夜も、今日で最後かあ………

お母さんはさみしいなぁ………」



「………いつか巣立ちの時はやって来るんだから………それに、

アキさんは、これからは自分の人生を

生きるべきだよ……」




アキさんは箸を置いて


僕を見た。



時刻は夜の10時過ぎ



シンガーソングライターのラジオが
室内には流れていた



「…拓海………どういう意味?」


真剣な眼差しが僕を食い入る様に見つめた



「…そのまんまだよ


アキさんはまだ32なんだし


再婚したら?」