笑顔の裏側に

「顔を上げて。」

言われた通りにすれば、優しく微笑んだお母さんが瞳に映った。

思っていた反応と違って、驚く。

「あなたの気持ちは分かったわ。マンションの更新手続きはこっちでしておくから安心しなさい。」

あまりのスムーズな話の展開に戸惑う。

てっきり戻って来いって説得されると思ったのに。

「本当にいいの?」

自分で言っておきながら不安になる。

「いいって言ってるじゃない。」

お母さんが席を立って、コーヒーの入ったサーバーを持ってきた。

カップにコーヒーを注ぎながら、言葉を紡ぐ。

「本当はね、分かってたの。優美はきっと戻って来ないだろうなって。」

新しく入れてもらったコーヒーから立つ湯気を見つめながら、お母さんの言葉に続きを待った。

「悠くんでしょ?」

その言葉を聞いた瞬間、短く息を吸った。

「何でそれを‥」

もしかしていつのまにかバレてた?

どうしよう。

何て誤魔化したら‥。

「あら、私が知ってること、知らなかったの?」

驚いたようにそう言って、コーヒーを優雅に嗜んでいた。

「え、ちょっと待って。いつから?どうやって?」

思わず身を乗り出してしまう。

「落ち着きなさいよ。せっかくのコーヒーが台無しじゃない。」

そう言われて席に座り直した。

その間もお母さんはコーヒーの香りを楽しんでいる。

その様子を見ながら、私はコーヒーどころじゃないんですけどと悪態をつく。

仕方なく私もコーヒーを一口飲んだ。