笑顔の裏側に

「どうした？」

急に声を上げた私に驚いてお父さんは振り返った。

「お母さんのこと、責めないであげてね。私がいけないの…。だから…」

言葉に詰まっているとお父さんは私の方に戻って来て私の前にしゃがんだ。

「なあ、優美。お母さんのことは大丈夫だよ。俺に任せて。でもな、どんなことがあっても誰かに暴力をふるってはいけない。ましてや自分の子供になんて…。」

お父さんは一度黙ってそのまま続けた。

「お母さんな、今日、受け持っていた患者さんが亡くなったんだ。俺たちが予想していたよりもずっと早くにな。お母さん、熱心に治療してたんだけど、急変してね。
だから今日のところは許してあげて欲しい。」

分かってたよ。

患者さんが亡くなったんだって。

お母さんだってすごく辛いんだって。

でもね、同時にさっきの言葉で分かったことがある。

私は本当にいらないみたい。

自分の子供よりも患者さんの方が大事なんだって。

私なんか死んでもどうなっても構わないんだってさ。

なんかもう期待するに疲れちゃったよ。

どんなに頑張っても私を愛してくれることはないんだよね。

「もういいよ、お父さん…。」

そう言うとお父さんは何も言わずに部屋を出て行った。