笑顔の裏側に

1階に降りれば、ちょうどお寿司を受け取っているところで。

お母さんと一緒にリビングに戻る。

お茶とお皿、割り箸を配って、それぞれ席に着き、手を合わせて食べ始める。

話題は主に大学生活の話だった。

箸を進めるスピードが落ちてきた頃、お母さんが唐突にポツリと呟いた。

「こんな風に優美と食事するのいつぶりかしらね‥。思えば、家族揃っての食事なんて数えるほどしかないわね‥。」

その一言に食卓が静まり返る。

確かにお兄ちゃんが家を出てからは、私1人で食事をとっていた。

医者の不規則な生活リズムでは、同じ時間に食事なんて無理だろう。

急な呼び出しだってあるのに。

「ごめんなさいね、こんな話‥。ちょっとわさびが滲みちゃって‥。」

そうして席を立ち、キッチンに行ってしまう。

冷蔵庫を前に、こちらに背を向ける形で立っていた。

すかさずお父さんが席を立った。

お母さんの肩を抱いて、宥めるように語りかけていた。

「ほら沙織、何もこれで最後じゃないだろう?これからは意識的に家族の時間をとるようにしていこう。な?」

「ええ。」

そのやりとりを少し遠くで聞きながら、私自身も励まされていた。

何も今日が最後じゃない。

まだまだ時間はあるんだ。

これからはきっと家族の時間を前よりも大切にできる。

そんな気がした。