笑顔の裏側に

次に視線を合わせた時には、お互いの目は真っ赤で腫れぼったかった。

それでも心は晴れやかで軽くなった気がする。

お父さんが自分のことを忘れて置き去りにしたとブツブツ言っていたけど、それもまた場の雰囲気を和ごますためだということも分かっていた。

来た時との重苦しい雰囲気とは一変し、少しだけ家族の温かさが宿ったような穏やかな雰囲気になったと思う。

「もう遅いし、優美は泊まっていきなさい。悠くんはどうするかい?泊まってくれても全然構わないけど、向かいの家だしな‥。」

そっか、一緒に住んでることは知らないんだった。

悠は今日、実家に帰ることを伝えてあるのだろうか。

マンションに1人で帰すなんてことは絶対に避けたい。

「そうですね。僕は家に帰ります。今日は家族水入らずで過ごしてください。」

家ってどっち?

悠を見つめても、答えは分からなかった。

「じゃあ、夕食だけでも食べていってくれ。」

「ありがとうございます。ご馳走になります。」

そうして、夕食だけはうちで食べていくことになった。

遅くなってしまったため、これから作るのはということになり、出前になった。

お父さんの鶴の一声で、お寿司に決まった。

お寿司が来るまでの間、久しぶりに自分の部屋に入ってみた。

何にも変わってなくて、片付けたままの状態だった。

でも埃一つないから、きっと定期的に掃除してくれていたのだろう。

本棚に置いてある参考書や必要事項をまとめたノート。

受けた大学の赤本。

その隣の棚には腕時計がひっそりと置かれている。

それを手に取ってみれば、いつしかの時刻を境に時を止めていた。

これは高校1年の誕生日にもらったものだ。

もうこれを見ても悲しくはならない。

もう一度時を動かそう。

私たち家族のように。

そっと持っていたハンカチに包んだ。