笑顔の裏側に

「その涙が答えだろう。ちゃんと向き合うんだ。自分の心とも。沙織さんとも。俺も立ち会うことになってる。お前が傷つくようなことがあれば俺だって今度は黙っちゃいねえ。お前には心から笑って欲しい。幸せになって欲しいんだ。」

そこまで言われたらもう嫌だなんて言えない。

悠の言う通り、本当は分かっていた。

いつかは向き合わなければならないことであると。

きっと私のために何度もお母さんと会って、説得して、やっとの思いで今日までたどり着いたのだろう。

その想いを無駄にすることなんてできるわけない。

悠も一緒にいてくれるんだ。

もう今までのように1人じゃない。

だから少しだけ頑張ってみようと思う。

幸せになるために、一歩踏み出すんだ。

「分かった。お母さんと会うよ。」

そう言えば、心底ホッとしたような表情を見せる。

握られた手にその決意を込めて、握り直した。

そして再び歩き出す。

だけど家の門まで来ると、必然的に足が止まった。

「お前のペースでいい。ここからは優美が先に行って。」

悠は門を開けて一歩後ろに下がった。

大きく深呼吸してゆっくりと一歩踏み出す。

そして扉の前に来た時、今度こそ足が止まってしまった。

まるで足が地面に張り付いたように動かない。

インターフォンを押そうと伸ばす指は震え、ボタンを上手く指先が捉えられない。

腕を下ろしてやっぱり無理だと懇願するように悠を見ても、首を横に振られるだけだった。

俯いて佇んでいれば、ふんわりとした温もりに包まれた。

「負けるな、優美。」

耳元でそっと囁かれる。

強張ってた体から次第に力が抜けていく。