そんな思考を中断するかのように、部屋がノックされた。

「優美、入るぞ。」

そんな声とともに、ドアが開く音がした。

カーペットの上に座り、救急箱が広げられる。

ショートパンツでむき出しだった足の傷口は丁寧に消毒され、絆創膏を貼られる。

視界が暗くなると、ベットが軋んだ。

今度は腕を取られて向かい合うような体勢にされる。

そして同じように手当てをしてくれた。

その間はお互いに口を開くことはしなかった。

「何があった?」

そう聞かれたのは、手当てが終わった後だった。

だけど言葉が出てこなかった。

何を話せばいいんだろう。

結局あれは私の幻覚で、実際には何もなかったのだから。

「優美、黙ってないで何か言え。」

悠の声色が少し厳しくなったのを感じた。

きっと私を突き刺す視線も鋭くなっただろう。

「もう‥忘れたい。」

「え?」

ポツリと漏れた本音を機に、涙が零れ落ちた。

「何でこんなに辛いの?苦しいの?」

握った拳が力なくベットの上に沈んだ。

「もう終わったことなのに‥。ねえ何で‥何でなの?」

悠の胸に抱きついて泣き叫ぶ。

「優美‥」

切なげに呼ばれた名前さえも感情的になった私の耳には届かない。

「こんなに苦しむくらいなら‥生まれてこなければよかった‥。」

涙交じりに出てきた言葉は自分の存在を自ら否定する言葉だった。

その言葉を口にした瞬間、背中に回された腕が強張った気がした。