「もう頑張らなくていい。だけど俺のために生きてくれ。」

「え‥。」

顔を上げれば、真剣にこちらを見つめる瞳とカチリと合わさった。

「正直、俺はT大に行きたかったわけでも医者になりたいわけでもなかった。それでも俺がT大医学部を受けたのは、お前がいたから。どんな形であれ、お前のそばに一生いたいと思ったから、お前と同じ道に進むことに決めた。お前はもう十分すぎるほど頑張ったよ。それでも何か頑張る理由が欲しいなら、俺を理由にして欲しい。」

まさか悠がそんな理由でT大医学部を目指していたなんて知らなかった。

同時にそこまで私のことを想っていてくれたなんて。

「ごめん、引いたよな。」

何も言わない私に引いたと勘違いしたのか、真っ直ぐな瞳が伏せられた。

「ううん、引かないよ。引くわけないじゃない。むしろありがとう。私の生きる理由になろうとしてくれて。」

悠の頰に両手を当てて、顔を上げるように促す。

「もう二度とこんなことはしない。絶対に。約束する。ちゃんと生きるから。悠と一緒に。」

そう言えば思いっきり抱き締められた。

もう見失ったりなんかしない。

同じ間違えは侵さない。

だってこんなにも私を愛し、生きる理由になろうとしてくれる人がいるから。

そんな人を裏切るようなことは絶対にできないし、してはいけない。

「ありがとう。」

小さく呟けば、ゆっくりと離された。

自ら傷つけた手をそっと取られる。

そして触れるだけの優しいキスを落としてくれた。