あの後悠は、

「最終的に決断を下すのはお前だから。考えておいて。」

それだけを言い残して、頭を撫でて帰って行った。

私はしばらく動けなかった。

¨俺がお前を守ってやる¨

その言葉が何度も頭の中で反芻されて。

その度に胸が加速する。

抱きしめられた腕の、撫でられた手の感覚がいまだ残っていて。

頰を赤く染めた。

今日初めて悠の中に¨男¨を感じた。

いつのまにか私を抱きしめる腕は力強くて。

私をすっぽり包む腕も、顔を押し付けた胸板もすっかり逞しくなっていた。

何でこんなにドキドキするのだろう。

私には先生がいるのに。

そこまで考えてふと気づく。

これじゃあまるで私は悠のことを好きみたいだ。

そんなことあるわけないし、あっちゃいけない。

悠は私のことを幼馴染として大切にしてくれているんだ。

だからこの胸の高鳴りも火照る頬もなかったことにしてしまえばいい。

そうしたら何もかもが昨日までと同じはずだから。

きっと今日は心が弱っているからだ。

そう言い聞かせて、私は今日のことを振り切るように、片付けを再開させた。