笑顔の裏側に

「本当にぶつけただけですから。ちょうど高い位置にあるものを取ろうとしたら、バランスを崩してものが落ちてきた。それがたまたま重いもので、咄嗟に庇った腕が犠牲になった。それだけです。」

本当は違う。

自分でぶつけたわけじゃない。

ぶつけられたのだ。

お母さんが私の成績が上がらないと怒り、最近は頻繁に暴力をふられてる。

この痣は植木鉢を投げつけられた時にできたものだ。

いきなり植木鉢が飛んできて咄嗟に顔をかばった。

だから腕に痣ができたのだ。

「そうか…。ごめんな。さっき、腕触っちゃって。痛かったよな。」

きっとこれで大丈夫だ。

うまくごまかせただろう。

「いえ、お手数おかけしました。ありがとうございました。」

そう言って私は再び歩き出そうと先生に背を向ける。

「なあ、家まで送って行くから帰る準備ができたら、職員室に来いよ。」

その言葉に私は振り返る。

「大丈夫です。一人で帰れますから。それに今日、このまま塾に行くので。お心遣い、ありがとうございます。」

そう言って厳しい表情をしている先生に笑顔を向ける。