「違う…。」

そんな小さな声が布団の中から聞こえたのは、少しの沈黙の後だった。

「え?」

布団の中から優美が顔を覗かせる。

大きな瞳に涙を溜めながら、言葉を紡いでくれた。

「驚いたけど…怖くなかったとは言い切れないけど…それでも、嫌じゃなかったです。だから謝らないで下さい。」

その言葉に目を見開いた。

嫌じゃなかったんだ。

よかった…。

じゃあ、怒ってないってことでいいのか?

だったらどうしてあの時、名前を呼んでも声をかけても返事をしてくれなかったんだろう。

そんな疑問が浮かんだ。

それにどうして泣いている?

そこまで考えてハッと気づく。

俺に背を向けていたことも。

俺の言葉に返事をしなかったことも。

俺が顔を覗き込んだ瞬間、すぐに布団を被ったことも。

全部、泣いているのを隠すため。

どうしてお前はそうやって俺の前でも強がるんだ…。

お前の悲しみも辛さも全てを受け止めたいのに。

どうして…どうしたら…俺の前で弱さを見せてくれる?

俺もベットに寝転がった。

「優美、こっち向いて?俺を見て。」

そう言えば俺の方を向いて寝返りを打つ優美と目が合った。

「優美。お前が思ってること、全部俺に教えてほしい。そうやって泣いていること、隠したりしないで。」

優美の目尻からは涙が零れ落ちる。

その涙を俺はただ静かに拭っていく。