笑顔の裏側に

木下を送り出すとすぐに優美が教室に戻って来た。

声を掛ければ、いつもより遥かに冷たい声に動揺する。

でもここで怖気付くわけにはいかない。

なんとか声を振り絞れば、返ってくる答えは容赦なく俺の心を突き刺した。

″所詮、誰でもよかったってことですね？″

その言葉に俺はひどく憤りを感じた。

今まで俺がしてきたことは何だったんだろうか。

何も優美には伝わってないのか？

俺の想いは少しも届いていない？

そんな思いも虚しく、痛いところを突かれて、吃ってしまうばかりだ。

それに優美の言葉は最もなのだ。

俺があの時ちゃんと木下を引き剥がしていれば。

そうして挙げ句の果てには優美はわけのわからないことを言い始める次第だ。

木下の気持ち？

何のことだ？

ただ不安を打ち明けてくれただけ。

俺を信じて話してくれた木下の気持ちを踏みにじることはできない。

だからあえて遠まわしで伝えたつもりだった。

でもその瞬間、優美から表情が消えた。

その表情はまるで大切な何かを失ってしまったような、絶望したようなものだった。

そうしてその後に優美の口から発せられた言葉に、俺は頭が真っ白になった。

感情のこもってない、淡々とした口調。

俺を見つめるあきらめたような冷たい瞳。

一瞬時が止まったようだった。

我に返って呼び止めた時にはもう遅くて。

優美は俺を一人残して教室を出て行った。