「どうした?」

黙ったままの私にもう一度先生が尋ねる。

「痛むのか?」

ただ首を横に振る。

「じゃあどうしたんだ?」

その質問に何も答えない。

言えるわけなかった。

殴られたなんて。

それはこの間の模試で英語が2位だったから。

夏休み後の最初の模試で点数も偏差値も下がって、そして2位だなんて、夏休み何してたんだって。

いつもより勉強する時間がたくさん取れる受験生としては一つの鍵になる夏休み。

そのあとの模試が下がるなんて信じられない。

それがお母さんの見解だった。

よほどそれが気に食わなかったらしく、殴られない日がないぐらいだ。

そして先生にもバレてしまったからか、今度は服の上から隠れる位置に切り替えた。

今まで抑えていたところもあっただろう。

でももうそれは必要なくなる。

だって誰にも気づかれる心配はないのだから。

何も言わない私に痺れを切らしたのか、もう一度そっと私の腕に触れる。

私は瞬時に体をよじって先生の手を払った。

勢い余って、バランスを崩し、床に手をついた。

そのまま体勢を立て直して、恐る恐る顔を上げれば、ひどく傷ついた表情で私を見つめる先生がいて。

「ごめんなさい!!」

私はそう叫び、逃げるように英語科準備室を出た。