歩side

診察室の前でずっと麻生の言葉を聞いていた。

正直、麻生の気持ちに驚くばかりだった。

俺のことが好きだなんて今でも信じられない。

全部俺に嫌われないための裏返しの言動で。

俺のことを嫌っていたわけじゃないと聞いて安心した。

そして俺のことで悩んでいる麻生を愛おしいとも思った。

まさか愛ねえにバレてると思ってなかったから、診察室の中から声をかけられた時は焦った。

でももしかしたらそれが愛ねえの狙いだったのかもしれない。

俺に麻生の本当の気持ちを聞かせることが。

その証拠に診察室を出る時に愛ねえは俺の肩に手を置いて耳もとで囁いたのだ。

「あとはあんた次第。頑張んなよ。」

その言葉が俺を奮い立たせる。

麻生は俺が立ち聞きしていたことに気づいていなかったようで、ショックからかずっとうつむいていた。

そんな麻生を俺はふわっと抱きしめる。

ビックリして麻生は顔を上げた。

「ごめんな。勘違いさせて…。」

そう言って一度麻生を抱き締める腕を緩めて麻生と向き合う。

すると麻生はすぐに俺と目をそらした。

「麻生、こっち向いて?」

俺の言葉に麻生はゆっくりと顔を上げる。

瞳には涙がたまり、今にもこぼれ落ちそうだ。

俺と目が合うと、麻生の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。

俺はそっと麻生の涙を拭い、真っ直ぐ瞳を見て言った。