気の抜けたサイダーみたいな呆けたわたしの返事に、喜代子おばさんとお母さんは眉間に皺を寄せ、先ほどよりも強い口調で続けた。


「純ちゃんだって、そろそろ結婚を考えてもいい年頃でしょう?」
「そうよ、決まった相手がいるならまだしも」


口々に、わたしに“彼氏”がいないことを非難しながら二人は、目の前に置かれたお見合い写真の相手がどんなに素晴らしい方かを力説した。

新調したばかりの上質なスーツに、艶やかな黒髪、口元で僅かに微笑む男性が写っているのは、きちんとした写真館で撮られた格調高い一冊。
どこかの銀行のお偉いさんの甥、なのだそうだ。


「こう言っちゃなんだけど、他にも紹介して欲しいって方がいたのよ。だけど釣り合うのは純ちゃんかな、と思って」


盗み聞きしてる人なんてまさか居るはずがないのに、喜代子おばさんはひそひそと小声で囁いた。
口元に手を当て、「あらあら」なんて余所行きの声で笑うお母さんの隣で、わたしはすっと席を立つ。


「…ごめんなさい。少し、考えさせて」


居間を出て、真っ直ぐ玄関に向かった。