「トイレだよ」
ふと顔を上げると、漆原さんが気に入らないといった顔で私を見ていた。
グサリと突き刺さるような視線は居心地が悪くて、早くこの場から立ち去りたいと思わされる。
「離して」
奏の腕を振り払い、足早に歩いた。
なんだか今は奏の顔を見ていたくない。
「おい、さくら」
「ほっときなよー、カナ君」
そんな声が聞こえたのを最後に、私は教室を飛び出した。
廊下の角を曲がって階段に出ると、屋上の踊り場まで一目散に駆け上がった。
「さっく!」
踊り場の壁に背中を預けて座り込んだ時、ケイが駆け上がって来るのが見えた。
「足速すぎだろ〜!あっという間に見えなくなるし」
「……ごめん」
だって、どうしてもあの場にいたくなかったんだもん。