「はぁ……」

今からマコトと夕飯~夜まで一緒にいなきゃならないのは、正直しんどい。

自分の気持ちに気付いた今、普通に接する事が出来るだろうか。

「変に意識しないようにするしかないよね……」

時計を見る。

「あれ?そう言えば、マコトが来た気配がないな?」

帰って来てから一時間位が経過しているけど、どうしたんだろう?

「下に降りてみるか」

私はパパパっと家着に着替え、リビングへ向かう。

扉を開けると、お母さんと真弓さんがテレビを見ながら「この女優は~」などと雑談をしていた。

「あれ?マコトまだ来てないんだ?」

スタスタとリビングに入り、キッチンの方を見渡す。
何処にもマコトの姿はなかった。

「あら?マコトから連絡行ってない?」

真弓さんがこちらに顔を覗かせ言った。

「え?」

「さっき急に電話が来て、可鈴ちゃんに用事があるから、ちょっと行って来るって。夕飯もいらないって」

「あ、そうなんだ……」

私は少しホッとしたような、残念なような、複雑な気持ちになった。

「お茶、入ってるよ」

お母さんが手招きをする。

「あ、ありがとう。わあ、美味しそう!」

紅茶の横に、真弓さんお手製の苺タルトが置かれていた。
私は座り、手を合わせる。

「いただきます!」

「どうぞ、召し上がれ」

真弓さんがニコッと微笑む。

「……ん~♡美味しーい♡」

苺の酸味と、カスタードクリームの甘さが絶妙にマッチしていて、絶品だ。

「ふふふっ、ありがとう♡」

真弓さんが嬉しそうに笑った。

甘いタルトと真弓さんの笑顔に癒される。

そんな笑顔を見て、不意に思った。

今までそんな事を思ったり、話した事は無かったけど、真弓さんはマコトの恋愛事情について、どう思ってるんだろう。
マコトは一人っ子の長男で、家を守ってかなきゃ行けない。でも、マコトは男の子が好きで、結婚も子供も望めない。
理解し合っているんだろうか。

ボーッと真弓さんの顔を見ながらそんな事を考えていると、

「どうしたの美紅ちゃん?おばさんの顔に何か付いてる?」

真弓さんは首を傾げながら、自分の顔をペタペタ触る。

「へ?……あ、ううん!付いてない付いてない!美味し過ぎてボーッとしちゃった」

私は、慌ててブンブン手を振った。

すると、

「どうせ、もう一個食べたいな、とか思ってたんでしょ。太るよ」

テレビを見ていたお母さんが急に振り向き、失礼な事を言い出す。

「ち、違います!正確には違わないけど、違います!」

確かに、もう一個食べたいな、と思っていたけれども。

「あら、まだまだあるんだから、一個と言わずにどんどん食べて?美紅ちゃん細いんだから、少し位お肉が付いたって構わないわよ」

「真弓さん。言わないで……」

「え?」

「はははっ。この子ね、最近3キロ太ったんだって。それで甘い物控えてたのよ」

お母さんが言わなくても良い事を真弓さんに暴露する。

「あら。じゃあ、おばさん申し訳ない事しちゃった?」

真弓さんが申し訳なさそうにタルトに目を落とす。

「ううん!全然!もうっ!お母さんは余計な事言わなくていいの!」

私はぷぅっと頬を膨らませそっぽを向く。

「ごめんごめん。はい。じゃあ残りのタルトはあんたにあげるから」

お母さんが、タルトが入っているケースを、私の前にスススとよこした。

「……ご飯食べた後に食べる」

差し出されたタルトを見てボソッと呟いたら、ドッと笑いが起こった。


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夕飯を食べ終わり、残りのタルトも食べてお腹一杯になった私は、自室に戻った。
下ではまだ、大人達が騒いでいる。

「……ふぅ」

ベッドに腰を下ろし、溜め息を吐く。
結局、マコトは顔を出さなかった。
京介さん(マコトのお父さん)が来た時に聞いてみたら、

「なんかね、考え事があるから今日は不参加って言ってたな。美紅ちゃん、アイツ、何かあったの?」

と言っていた。

「私の方が聞きたいよ……」

ポスッとベッドに横になる。

「なんか、このまま気まずいの嫌だなぁ……」

私は、ベッド横のサイドボードの上に飾ってある写真を見ながら呟いた。

高校の入学式の時の写真。
私とマコトと可鈴の3人が写っている。

「あ、そうだ」

ガバッと勢い良くベッドから起き出し、スマホを操作する。

「……あ、もしもし可鈴?今大丈夫?」

私は、「可鈴ちゃんの家に行って来るって」と言う真弓さんの言葉を思い出し、可鈴に電話をかけた。