「お帰りなさーい」

お母さんと真弓さんが口を揃えて言った。

二人は既に苺タルトを食べ終えたのか、紅茶をすすりながら談笑をしている。

「あれ?マコトくんは?」

「着替えてから来るから先に帰っててって。わっ!美味しそう!」

リビングに入ると、ケーキの箱が見えた。中を覗くと、苺がこれでもか!と言う位乗ったタルトが、綺麗に並べられていた。

「あんたも着替えて来なさい。お茶淹れておくから」

「はーい」

私は言われた通り、着替えに部屋へ戻る。

「はぁ……」

部屋に戻るなり、私はそのままベッドに倒れ込んだ。
なんだか疲れた1日だったな。

ボーッと、朝の事を思い出す。

ちらりと見えただけだったけど、意外と逞しかったマコトの胸板。
髪の毛も無造作に束ねられていて、中性的な顔立ちが、逆に男っぽさを強調させていた。

無意識に、口許に手を置く。

「キス、されても良かったな……」

ボソッと呟く。

数秒後、ハッとし、頭が混乱する。

「いやいやいや!私、何言っちゃってん の!?あり得ない!あり得ないから!」

私はガバッと起き上がり、枕をバンバン叩き、必死で否定をする。
お昼休みに、可鈴にあんなに腹が立ったとボヤいていたのに、
なんでこんな考えに至ったんだ。

「そうだよ!腹が立ったんだから!」

そう言って、何か違和感を感じ、枕を叩いていた手を止め、ふと思った。


━なんであんなに腹が立ったんだろう━


からかったりからかわれたりなんて、普段からある事だ。
なのに、なんで今朝の事だけ、あんなに頭に来たのか。

少し考え、ある感情が私の頭を過る。

「……え?ちょっと待ってよ。
まさか…え?そんなハズは……」

違うと思いたい。
だけど、それを認めたら、全部が納得の行く話だ。

腹が立ったんじゃない。

からかう為にあんな事をされたのが、悲しかったんだ。

無意識に、それを「腹が立った事」に頭が変換していたんだ。

「そっか……。私、マコトが好きだったんだ……」

こんな気持ちに気付いたってどうしようもないのに、
言葉にしたら、スッと胸の支えが取れた気がした。

でも、マコトを好きだと自覚しても、どうする事も出来ない。
マコトの恋愛対象は、男の子だ。
女の子が好き。とか、この娘が可愛い。なんて、聞いた事がなかった。

「ははっ。自覚した瞬間に失恋か……」

うなだれる。
こんな不毛な恋心、もう笑うしかなかった。

「どうしよう……」

目の前が滲む。
枕を握った手に、涙がポタポタと零れ落ちた。

━『親友のままでいよう』━

このまま、気持ちを隠し通すしかない。
マコトにとっても、自分にとっても、それが一番だろう。

上手く出来る自信なんてないけど、
それしか私に選ぶ余地なんてなかった。