「おっそいなぁ、マコト。今日はマコトが来る番だよね?」

私達は朝、学校に行く時、かわりばんこに迎えに行っていた。

昨日は私がマコトを迎えに行ったから、今日はマコトが来る番なんだけど、待てど暮らせどマコトが来る気配がない。

時計の針は、もうすぐ出ないと遅刻になってしまいそうな時間を指していた。

「……迎え行くか」

カバンを持ち、お母さんに「いってきまーす」と声を掛け、家を出る。

マコトの家は、隣にある。
親が親友同士で、めっちゃ仲が良い。
双方が結婚する時に、「家は隣に建てよう」なんて約束をしたらしい。

「よくやるよ……」

でも、そのお陰でマコトと出逢えたんだから、感謝しなきゃいけないのかな。

そんな事を思いながら、マコトの家のチャイムを鳴らす。

微かに中から゙ピンポーン"と音が聞こえ、少しすると、玄関が開かれた。

出て来たのは、マコトじゃなくてマコトのお母さんだった。

「真弓さん、おはよー。マコトは?」

「美紅ちゃん、おはよう。あの子、珍しく寝坊しちゃったのよ。もうすぐで支度終わると思うから、中で待っててくれる?」

おばさんが体を傾け、私を招き入れる格好をする。

「分かったー。おじゃましまーす」

私は何の躊躇もなく、中に入る。
いつもこんな感じ。

「そうだ美紅ちゃん。今日、苺タルト作るからお裾分けしようと思ってたんだけど、美弥はお家に居るかしら?」

「苺タルト!?わーいっ!うん。今日は特に用事ないってお母さん言ってた」

あ、美弥ってお母さんの名前。
真弓さんは趣味がお菓子作りで、たまに作って食べさせてくれるんだ。
これがまた、美味しいの!

「真弓さんの作るお菓子、大好き!楽しみだなー♥」

「ふふふっ。ありがとう♥楽しみにしててね」

真弓さんが、柔らかく笑う。
真弓さんのこのほんわかした雰囲気、好きだなぁ。
うちのおかあさんがキビキビした人だから、対照的なんだよね。
お母さんはいつも、「昔から放っておけない」って言ってるけど、なんか分かるかも。

二人してほのぼのムードを醸し出していると、真弓さんが、

「ところで美紅ちゃん」

「うん?」

「学校大丈夫?」

と、時計を指差した。

「……ハッ!そうだった!マコト迎えに来たんだった!今何時!?」

指差された時計を見ると、もうホームルームが始まる時間だった。

「………………」

「美紅ちゃん、ドンマイ!」

真弓さんが親指を立て、ウインクをしている。

「……真弓さん、ありがとう。マコトのトコ行って来る」

もう遅刻決定だし、今更急ぐ必要もない。
私は二階にあるマコトの部屋へ向かい、コンコン、とノックをし、声を掛ける。

「マコト?用意終わった?入るよー?」

私はマコトの返事を待たずにドアを開ける。

「どうせ遅刻だし、急がなくても━━」

言い掛けて、私もマコトも動きが止まる。

「……………」

「……………」

マコトは着替えの途中だったみたいで、シャツの前がはだけている状態だった。

私もたまに忘れるけど、マコトは正真正銘男の子。
当たり前だけど、胸は無い訳で……。

「ご、ごめんっ!!!」

私は慌ててドアを閉める。

(ギャーッ!忘れてたっ!)

顔が熱い。
今見た光景が、頭から離れない。
熱くなる頬を両手で抑え、一人で悶絶する。

そんな事をしていると、マコトが部屋から出て来た。

「あんたね、返事待ってから開けなさいよ」

ため息混じりに、呆れた口調で言う。

私はマコトの方が見れず、目をそらしたまま、「ごめん」と謝った。

二人、しばらく無言。

(ち、沈黙が重い……)

「……なぁに?アタシの裸見て興奮しちゃった?」

マコトがニヤニヤしながら私の顔を覗く。

「ち、違うわよっ!!」

パッとマコトに向き合う。
バチっと目が合い、カァッとまた顔が赤くなった。

「ウソつき。じゃあなんでこんなに顔が赤いの?」

マコトの手が私のアゴに触れる。

そのままクイッと上を向かされた。

(あごクイ!?)

乙女なら誰もがときめく、今流行りの!?

マコトの顔が間近にある。
見れば見るほど、男の子だなんて信じられない。
肌も綺麗だし、メイクもプロみたいに上手だ。
私は今の状況を忘れて、ぽーっとマコトを見つめる。

「美紅。そんなに見つめられたらアタシ……」

マコトの顔が、どんどん近付いて来る。

そこでハッとする。

(キ、キスされる!?)

ぎゅっと目を瞑る。

その時━━、

「マコトー?美紅ちゃーん?用意終わったのー?」

と、下から真弓さんの声が聞こえた。
その声に私達はハッとし、慌てて離れた。

「い、今行くから!」

マコトが返事をする。

(な、なんだったの、今の!?)

私はもうパニックで、思考回路がショート寸前だった。

「美紅、あの……」

「えっ!?」

マコトの声に、ビクッと体を震わせる。

「……いや、行こっか」

「う、うん……」


その後私達は、学校に着くまでギクシャクしたままだった。