「ねぇ、ねぇ、この服可愛くない!?」

放課後、カフェを併設している本屋で、私達はお茶をしていた。

目の前に座っている幼馴染み、河上マコトが先程購入したばかりのファッション雑誌片手に、テンションが上がっている。

このモデルより、アタシの方が可愛い。
とか、
アタシの方が可愛く着こなせる。
とか、それはまぁ、好き勝手に。

確かに、マコトは可愛い。

色白で、スラッと伸びた手足。
目もでっかく、くりくりおめめ。
肩まで伸びた髪の毛がふわふわ揺れて、とても女の子らしい。

その証拠に、このカフェにいる男性客は、みんなマコトをチラチラ横目で見ていた。

(みーんな、騙されてるとも知らずに……)

「ねぇ、君たち二人?俺らも二人だけなんだけど、一緒に遊ばない?」

そんな中、先程からこっちを見ながらニヤニヤしていた男子高生が、私達に声を掛けて来た。

マコトと一緒にいると、ナンパなんて珍しくもない。
必ずと言って良い程、声を掛けられる。

(あーあ。見てるだけの方が良かったのに……)

「聞いてる?一緒に遊ぼうよ」

私側に立っていた男子が、私の肩に触れようとした。

が、

その手が勢いよく弾き返される。

(え?)

弾き返したのは、マコトだった。
私もビックリしたけど、手を叩かれた男子は、もっとビックリしている。

「お前、誰の許可を得て美紅に触ろうとしてんだ?あ?」

いつもと違う、低くドスのきいた声。
目を見ると、くりくりだったはずが、細く吊り上がっている。

「キタネェ手で触ってんじゃねーぞ!」

マコトが、私の肩を触ろうとした男子の胸ぐらを掴んだ。
一瞬、呆気に取られたが、殴りかかりそうな勢いに、慌ててマコトの腕を掴んだ。

「ちょっ、マコト!ここお店の中っ!!」

私の声にハッとしたマコトが、周りを見渡す。
声を掛けて来た男子含め、その場にいた男性客全員の顔が青ざめている。

ヤバイ、と思ったのか、胸ぐらを掴んでいた手をパッと離し、体をくねらせて、

「やぁだ!マコト、困っちゃう☆」

と、言った。

凍り付く店内。

数秒後、

「男ーーーっ!?」

と言う声が、店内に響き渡った。


そうそう。
言い忘れていたけど、私に女の子の幼馴染みはいない。

マコトはいわゆる゙男の娘"である。


*******************


「もうっ!パンケーキ食べ損ねたじゃない!!」

私達は、注文したパンケーキをキャンセルして、パニックになった店内から慌てて飛び出して来た。

「ごめんってば~。機嫌直してよ~」

私はマコトを無視して速足で歩く。
その後を、タタタッとマコトが付いてくる。

「大体、いつもはもっと適当にあしらってる癖に、なんで今日に限ってあんな喧嘩腰だったのよっ。私だってビックリするでしょ!」

「だって~。気が付いたらああしてたんだもん!自分でもよく分からないんだよ~。怒らないでってばぁ!」

マコトが私の腕を掴み、必死に謝って来る。

私は心の中で溜め息を吐き、足を止めた。

「……もうあんな事しないでよ」

そう言うと、パァッとマコトの表情が明るくなった。

「うんうん!しない!」

マコトが私の腕にしがみ付いて、もうニコニコ笑っている。

(……ったく、しょうがないな)

私はもう一度、心の中で溜め息を吐いた。

「ねっ!アイス食べに行こっ!お詫びに奢るからさ!」

「……ダブルじゃなと許さないからね」

「オッケー!いこいこっ!」

グイグイ腕を引っ張られ、歩き出す。
さっきのしおらしい態度は何処へやら。
本当に反省をしているんだろうか。

(それにしても……)

さっきのマコトを思い返してみる。
あんなに声を荒げるマコトは初めてだ。

(今までのナンパと何か違ったのかな?まあまあカッコ良かった気がするけど……)


その後━━。

アイスを食べていてもその疑問が頭から離れなくて、モヤモヤしたまま私達は帰路に着いた。