見慣れた駅へ降り立った。
コンビニで買ったビニール傘に雨がやさしくふりそそぎ、彼女が雨音と一緒に語り始める。
「さゆりね、いつでもいるんだよ。だってもうみんな一つだけだから。」
「うん。」
「雨粒のうらがわとか、閉じたドアのうしろとか、お兄ちゃんのまぶたの向こう側とかに。急いで隠れるんだよ。でも自分でどこかに行く事はできないの。」
「うん。」そうか。
「だから死なないって事は、ドアのうしろとか、雨のうらがわとかを見ないって事なの。うーん。まばたきをするって事なんだよ。」
「そうだね。」
「でも。だから、あのね。生きるって事はね、」

「生きるって事は、自分で決めるって事なんだよ、お兄ちゃん。」