「乗っていくか?」
並木道を抜け、階段を降りたところに小さな白いワゴンがぽつんと止まっていた。自販機の前にはぶしょうひげの生えたおじさんが、やっぱり立っていた。
「いや、歩いて帰るよ。」
「そうか。」
そうつぶやいたおじさんの顔は、初めて笑ったように見えた。深い皺に刻まれた後悔も、細めるしか出来ない目に映る世界も。ただ彼にとっても。
そうなんだ。この人も同じなんだ。そう心が呼びかけた。