聞こえるというよりも。
それはもともと知っていて、少しずつ思い出していく感覚に似ていた。

「わたし、なんでもしってるの。」
体に染みてくる雨粒の一つ一つがはっきりと解った。

「ほんとに、なんでもしってるんだから。お空にいくつお星様がいるのか、どんなにたくさん人がいるのか。おにいちゃんがなにを思っているのかだって、しってる。みんながなにを思っているのかだって、しってるんだから。」

雨は降りしきる。
「でもね。さゆりがなにをしたいかは知れないの。それだけは知らないの。だから、」

目は開いていただろうか、解らなかった。けど彼女がどうしてほしかったか、もう僕は知っていた。そのまっさらな世界の中に、ただ一人の女の子がドロだらけになった黄色い帽子を愛おしく抱きしめていた。