「ついたぞ。」
朝よりも広く暗く曇った天気のせいか、広々とした駐車場のわりに車は数える程しか停まっていなかった。
林道の入り口のすぐ横に、大きな看板が立っている。
小さな山を回るハイキングコースのようだ。

「行け。」
いつのまにか自販機の前から此方に歩み寄って、男はそう言った。手にしているのは、また、あの缶コーヒーだ。

「お前がここに来たいと言ったのだろう。」
それを責めるかのように、責任があるかのような口ぶりで言う。
それに焦って僕は答える。
「いや、あれは。つか、あれって。」
「いいから早く行け。降ってくるぞ。俺は出口で待っている。」
男はそれだけを言うと、車に向かって行った。
僕はと云うと、乗り込んでゆくその背中を見、それから走り出して行く車をただ眺めていた。
そしてそれらが事実である事を、承知してから諦めるように口にしていた。

「うわ、本当に一人で行きやがった。」