隼人の言い方はまるで感情がこもっていなかった。

どうするかは自分で決めろということである。

しかし渚の頭はやるべきではないとわかっていても、身体はやりたいという方向に向いてしまっている。

頭と身体の押し問答が渚の右手に余計に力を入れさせる。

しかしそれは渚の傷を痛ませることになり、今回のジレンマは頭が勝つこととなった。

しばらく呼吸を整えていた渚だったが、次第に力が抜けて普通の状態に戻った。

隼人も安心したような表情を見せ、笑顔をのぞかせて話しかけた。

「どうやら切らなくても済んだようだな。安心したよ」

さっきの言葉とは違い、いつもの隼人らしい、温かい言葉が聞こえてきた。

渚も安堵の表情をもらし、隼人に笑いかけた。

「私も今はそう思う。でもさっきは本当に切りたくて仕方なかった。…でも、何であんなに冷たい言い方をしたの?もし、あれで私が切りたいって言ったらどうするつもりだったの?」

渚の疑問は当然のものだった。

「だってこれからもあんなことがあったとき、おれがずっと一緒にいてやれるわけじゃない。自分で止めないといけないときがほとんどさ。リスカは自分で止められなきゃ何度でもやってしまう。だからお前にあえて試練を与えたのさ。ちなみにもしお前が切る選択をしていたら、俺は切らせてたよ。その代わり、治療のあとに激怒してただろうけど」

隼人はいたずらっぽく笑ったが、口調は真剣だった。