時は金なり

「…ねえ、先生?先生、手首の傷はまだ残ってるの?」

渚は泣いていたままの体勢で、つまり隼人のひざの上で尋ねた。

「ああ、残ってるよ。どうやらリストカットの傷は簡単には消えないらしい。見るか?」

そう言うと、隼人はいつも右手にはめていたリストバンドをはずした。

その手首の内側にはざっくりと切れていた当時をいまだに物語る傷がくっきりと残っていた。

渚はその傷を見るとゆっくりと体の向きを変えた。

そして隼人の右手を持ち上げると、その傷を自分の口のほうへ持っていった。

隼人も渚が何をしようとしてるのかわからず戸惑っていたが、別に渚の行動を制御するわけでもなく渚に身を任せた。

やがて渚はその傷をゆっくり舐め始めた。

その行動を見た隼人は思わず目を見張った。

渚の行動は退院したころの自分とまったく同じだったのである。

自分の心の傷を舐めるかのようにリストバンドを外してはその傷を舐めていたあの頃。

隼人は思い出に浸っていたが、その思い出が事態を急変させた。