時は金なり

「渚、安心しろ。俺が付いてる。お前はもう一人じゃないんだ」

言葉と同時に渚をいっそう強く抱きしめた隼人だった。

その強さに抱かれて、渚は自分を取り戻した。

急に現実に帰ってきたかのように一瞬何が起こったのかわからないようだった。

しかしすぐに自分に何が起きたかを思い出し、そして何故隼人が自分を抱きしめてくれているのかを理解した。

自分の腕を押さえつけるかのようにきつく組まれている隼人の腕に、渚はそっと自分の手を置いた。

「先生、もう大丈夫」

渚はそのまま隼人の腕をつかみながらつぶやいた。

渚の声を聞いて、やっとなぎさを開放した隼人の顔はまだ心配そうだった。

「平気か?それにしても何で何も言ってないのにこんな症状が?」

隼人は独り言のようにつぶやいたのだが、渚にははっきり聞こえていた。

渚はまだ完全に恐怖から抜けきっていないのか、多少上ずった声で答えた。

「それぐらい予想できるよ。今の私の状況で、話し合うことなんて、この怪我のことしかないでしょ?」

そして自分の身体から隼人の腕を移動させ、隼人に向かい合った。