時は金なり

隼人が保健室に戻ってきたのは渚が手首を切ってから20分後のことだった。

ドアを静かに開けた隼人は、目の前に何かが倒れているのを見つけた。

大きさからすると人らしいと隼人は思い、早足でその物体に近づいたが、その物体が何であるかが分かった瞬間、隼人は目を見張った。

さっきまで寝ていたはずの渚が床に横たわっているのだから。

しかもその周りには何か赤いものが広がっていた。

誰が見てもそれが渚の身体から流れ出したものだとわかった。

しかし慌てている隼人にその判断は出来なかった。

突っ立っていたその場所から渚が倒れている場所まで行って、倒れている渚を抱きかかえた。

そして揺さぶりながら叫んだ。

「渚!渚!起きろよ、おい!」

しかしもちろん渚が動くはずもない。

体中の多くの血液はすでに体内から流れ出している。

そのために酸素が足りなくてチアノーゼを起こしていた。

チアノーゼとは血中酸素が足りなくなり、結果として全身の酸素も不足し、唇が青紫色に変色する現象である。