やっとの思いで帰宅した林檎。
しかし手には蜜の鞄を持ってしまっていて…。



第3話-とまどい-

幾ら普段よりも家までの距離が短いとは言え、土砂降りの中で傘をささずに帰った。

その為、林檎はずぶ濡れになって家に辿り着く。

…これではせっかく蜜が傘に入れてくれていたのに、意味が無い。
玄関に入った所でドアにもたれ掛かり、大きな溜息を吐き出す。
考えても考えても、頭の中はぐちゃぐちゃで整理が出来ない。

「林檎?お帰り。はい、タオル」

物音で娘の帰宅に気付いた母親が、風呂場からタオルを持って来てくれた。

「ありがとう・・・」

浮かない顔で、短く礼を言いながら頭を拭く。濡れた髪からは雫が垂れ落ちている。


「あら、あんた。それ、誰の鞄?」

母に指差されようやく思い出し、息を飲む。蜜の鞄を持って来てしまったのだ。


「これ・・・!蜜くんのだっ!!」

バツの悪そうな顔で呟いた娘に、母は「仕方ないわねー」と笑いながら言い、

「後で蜜君に会いに行くでしょ?煮物作り過ぎちゃったから、律子に渡して来てよ」

律子とは、蜜の母の名前だ。

「お母さん行ってきてよぉ」

困った顔で頭を振り、イヤイヤをしてみせるが母には通用しなかった。
部屋に戻り、服を着替えると溜息をつきながらベッドに転がる。

(明日、学校で渡そうかな・・・)

しかし明日、学校で渡されても、蜜的には困るだろう。
現段階ですら気まずいのに、益々気まずくなってしまう。


「よし!行こう。鞄置いて帰って来たら良いんだし!!」

立ち上がると、無駄に元気な掛け声と共に立ち上がる。


母からの頼まれ物を受け取り、いざ出かけようとするも、玄関で止まってしまう。
足が動かない。

行きたくない。
そんな気持ちが、足と床を縫い付けていた。


外は雨。
時間と気持ちの焦りだけが過ぎて行く。

林檎はただただ戸惑いの中で立ち尽くしていた。