好きで、言えなくて。でも、好きで。

「ちゃんと、棟郷さんと飲みたかったんです。ちゃんと、覚えていたいんです。」



棟郷さんとのことは。



「吹蜂……。」


「で、でも……!棟郷さんが嫌なら、ここじゃなくてもいいです。無理にとは言いませんから。」



よほど棟郷と来たかったようで、迷っている棟郷に威叉奈の言動はどんどんネガティブになっていく。



「い、嫌ではない。ただ、吹蜂はどちらかというと居酒屋の方が良いのかと思っただけだ。」



急降下していく威叉奈のテンションに、棟郷は慌てて弁解する。



「本当に?」


「本当だ。」



疑うというより不安げに見つめてくる威叉奈に、安心させるように答える。


あれだけ話をしても、不安が拭えないらしい。

それだけ威叉奈の心が閉じ込んでいた、ということだろう。



「ほら。行くぞ?」



優しく微笑み、棟郷は手を差し出した。


バーまでは数メートルも無いが、手を繋ぐ為に。



「……うん!」



嬉しそうに返事をし、威叉奈はその手に自分の手を重ねた。





温もりのあるその手を離さないと、誓うように握り合う。


手だけじゃない、見えないその心さえも。