「吹蜂?」


「!………管理官。」



しばらく携帯を睨み付けていた威叉奈が呼ばれて振り返ると、棟郷がいた。



「な、何なんですか。どいて下さい。」



棟郷の脇をすり抜けて、威叉奈はさっさと立ち去りたかった。

こんな居心地の悪い空間から。


しかし、威叉奈が動いた方向に棟郷も動き、行き道を塞ぐ。



「……この間はすまん。強引だった。」


「っ……別に、気にしてませんから。」



威叉奈の態度を見れば、そんな風には全く見えないことは明らかだった。



「…そうか。だが、俺の気持ちに嘘はない。」



強がっている威叉奈も愛おしい。


そんな風に思える日が来るなんて、自分も末期だな。なんて棟郷は自分の気持ちに内心苦笑する。



「細脇とのことは本当に誤解だ。細脇を誘ったのは、お前と食事をしたかったからだ。賭狗膳よりは言いやすかったからな。」



そんな下心を女の勘で見抜いた苗込はいつも断った。



私よりも誘う人がいるんじゃないか、と。