何処か思いつめたようなそんな眼差しを秘めた貌。




「わかった。
 先に多久馬総合病院まで行く」

「えぇ、お願いするわ。
 恭也君に伝えて」




まだすぐに動けない母に依頼されて、
タクシーを捕まえて、多久馬総合病院まで走らせた。


受付で、多久馬恭也と言う人に面会したいことを告げるものの
アポがないと取次が出来ないと、門前払い状態。


だけど今日ばかりは、それで引きさがるわけにも行かず
そのまま、受付嬢に俺自身の身分証を提示する。



真人の従兄弟であること。
母が羽村冴香であること。



次はすぐに取り次ぎ相手からの了承が得られたようで、
俺は事務長の案内で、院長室へと送り届けられた。




「病院長、羽村咲夜さまをお連れしました」



事務長が紹介して、部屋に招き入れた途端
恭也さんはすぐに人払いをして、俺を招き入れた。



「わざわざ真人の為に済まない」



そう切り出された言葉に、
これから話そうとしていた手前拍子抜けしてしまう。



「いやっ、私の方にも冬生の方から今しがた、
 真人の一件の報告が入った。

 真人のメインバンクの通帳の記録を確認したが、
 高額が引き出されていた。

 移動用の交通手段だろう。
 H市まで、神楽のところにまで帰ろうとしているのかもしれない。

 今、交通手段を手配しているところだ。

 冴香さんもこちらに来るのだろう?
 今、早谷【はやせ】経由で、私が依頼したヘリに加えてもう一機
 着陸許可を求めてきた。

 依頼者は、伊集院紫音。
 あの方に依頼されたら、断ることは出来ないよ。

 時間までの間に、私も少々動くことがある。
 君は時間まで、ここでゆっくりと過ごすといい」



すでに情報を得ていたらしい恭也さんは、
俺にそう告げると、慌ただしく院長室から飛び出していった。



俺は院長室で落ち着くことも出来ず、
携帯電話を握りしめる。




……真人……。





それから30分ほど過ぎて、
再び院長室に姿を見せた恭也さんの傍には、
母さんと、紫音先生の姿があった。






「どうぞ、屋上のヘリポートにご案内します」



促されるままに、院長室を出てエレベーターで屋上まで浮上すると、
扉があいた向こう側には、ヘリポートが確認できた。




すると俺たちの後に、姿を見せた数名の集団。




「冬生」

「院長、遅くなりました。
 義弟の瞳矢と、瞳矢の親友の飛鳥君です。
 そちらは?」

「羽村君の付き添いの伊集院先輩。
それと真人の従兄弟の咲夜君だ」

「真人の従兄弟……。
 
 彼は神楽姉ちゃんの
 妹さんの息子さんってことですか?」

「あぁ。
 順番にヘリが離着陸する。

 冬生、瞳矢くんと飛鳥くんと順番に乗り込みなさい」

「院長、飛鳥君を同席させて頂いていいですか?」

「あぁ、構わない」

「飛鳥君、君は多久馬院長と同じヘリへ」



冬生と呼ばれた存在が、恭也さんに紹介すると
恭也さんは、すぐにヘリの方へと誘導する。



上空には、三機のヘリが順番に着陸しようと上空で待機している。



一機ずつヘリが着陸しては、
順番にH市へ向かう人数をのせて
飛び立っていく。


一機目に乗るのは、
冬生と呼ばれた存在と、真人と一緒にあの時演奏した穂乃香の彼氏。

二機目のヘリに乗り込んだのは、
恭也さんと、母さん、そしてもう一人の飛鳥と呼ばれていた少年。

最後のヘリに乗り込んだのは、
紫音先生と俺。




三機のヘリは、真人にとっての懐かしい故郷へと
上空を移動し続ける。





……真人……、
後少しで君を捕まえられる。




これから向かう先、
君が居ることを祈りながら。