真人と瞳矢の演奏を聴きながら、
俺は無言のまま母にメッセージを送る。



真人の音色を久しぶりに聴きたいから。
どうせ、瞳矢の単独の演奏で彼が通過する可能性はゼロ。


だったら今更、真人が演奏を手伝ったからって
審査に影響しようがない。


だったら……真人が、アイツと一緒にどんな演奏をするのか
興味が先走った。


審査員の話し合いも終わって、
そのまま演奏が続くことを見届けると、
俺はステージそでへと向かった。



ステージそででは、穂乃香が不安そうに
瞳矢の演奏に視線を送っていた。


「アイツを探してたんだ。
 ようやく見つけた」


穂乃香の傍まで近づいて、
きっかけの声をかける。

突然隣に立った俺に、驚いたような表情を浮かべて
穂乃香は俺に視線を合わせた。


「瞳矢と演奏してる人、咲夜の知り合い?」

「俺の従兄弟。
 母さんの姉さんの子供。

 H市の地震で、伯母さんが亡くなって探してたんだ」



真人のことを説明しながらも、
俺の視線は、ステージへと意識を向けられている。




真人はこの曲を以前、何処かで聴いていたことがあるのだろうか?

それとも今日、この瞳矢と言う存在の音を聴いて
一緒に奏でているのだろうか?


そんな疑問が湧き上がりながらも、
俺はステージで奏でられる、優しい音色に心奪われていた。


演奏時間が終わると、沈黙だけが会場に広がり
真人はその場所から逃げ出すように、外に向かって走り出してしまう。



「悪い、穂乃香。
 真人を追いかけて来る」


穂乃香にだけ声をかけると、
俺はステージサイドから観客席側へと飛び降りて、
真人を追いかけるように会場から飛び出す。



簡単に見つけられると思っていたのに、
会場の外に出た途端に、真人が何処に走りだしたのかわからなくなった。



暫く、アイツを探すように周辺を駆けつづける。
だけど真人の姿は捉えることは出来なかった。





30分ほど周辺を走り回って、
会場に戻った時、携帯に一本の電話が鳴り響いた。




「もしもし、母さん」

「咲夜、何処にいるの?」

「今、会場前。
 真人、見失っちゃった。

 母さん……どうしてアイツ俺たちから逃げるんだろう」

「そうね。
 本当に、真人にも困ったわね。

 咲夜、審査発表が終わり次第、多久馬総合病院の恭也くんのところへ
 お母さん行こうと思うの。

 何となく、真人が行きそうなところが思い当たるから」

「真人が行きそうなところ?」



母さんがそう言った言葉で、
俺が思いついた場所は、H市。



神楽小母さんが眠ってる場所。




この土地に来た真人が、
ここに場所に居場所を見出させていなかったとしたら……。




「母さんH市に行ったかもしれないってこと?」

「お母さんはそう思ってる。

 真人のメロディーが嬉しそうだけど、とても悲しそうだったの。
 相反する思を秘めていた、そんな音色だったから」

「そうだね……」




そうに俺は真人が最後に見せた貌【かお】が気になる……。