三つの古典条件。


ソナタ形式から緩徐楽章。
そして終曲はロンド形式。



幼い時から刻まれてた音楽の知識は、
瞳矢の音にゆっくりと歩み寄っていく。



僕たちの演奏は無事に終わった。


だけど場内から、拍手はおこらない。




『アイツは優しいから口にしないだけなんだ。

 本当は迷惑してんだよ。
 だからアイツの前から消えてくれ。

 アイツの心を乱すな。

 おまえとアイツの時間は終わったんだよ。
 おまえはアイツにとって必要ないんだ』





突然、僕の中に昨夜の言葉が甦る。



その言葉が蘇った途端に、
体が反射して震えそうになる。


そんな恐怖から逃げ出すように、
僕はステージから飛び降りて、警備員をふり切ってホールの外へと飛び出した。

出演者用にプレゼントを置く場所に、
瞳矢の名前と、自分の名前を書き残して
花束を置くと、そのまま会場から飛び出して駅へと向かった。





瞳矢……ゴメン。






僕が瞳矢と出逢っていなかったら、
こんなに君を苦しめる事は、なかったのかも知れない。


浮かび上がること全てが僕を追い込んでいく。


何もかも全て、僕が悪い。


僕なんて要らない。
僕なんて必要ない。







会場から一番近い駅の窓口で、故郷である、
H市へと向かう切符を購入すると
改札を通り向けて、ホームに入ってきた電車へと飛び乗った。




後、四時間過ぎたら……
母さんが待つ、懐かしいあの街に帰れる。





お守りのようにポケットに忍ばせてある
タブレットケースに触れる指先。




後少し……。



その時が来るまで、
どうか……僕を見守ってください。



母さんが待つ、その場所に
もう少しで辿り着くから。