着信相手は穂乃香。


電話を手に楽屋を出て電話に出る。
 


「咲夜、ごめん。
 パパが捕まらなくて。

 今、会場についたんだけど私だけじゃ、会場内に入れないから。
 迎えに来て貰える?」


穂乃香に言われるままに、ホールの関係者出入り口の方へと移動すると、
ガラスドアを開けてガードマンをすり抜けるように外へと向かう。


何やら紙袋を手にして、俺に手を振る穂乃香。


そんな穂乃香の手から荷物を奪い取ると、
俺は並んで、会場内へと戻って行く。


ガードマンチェックも、俺が傍に歩いていることによって
関係者として止められることなく、建物の中へと入っていく。


その最中、背後に感じた視線の相手。 
それは……穂乃香が思い続ける、瞳矢と言う存在。



なんだよ。
ただ視線を投げるだけならとっとと来いよ。 
 


そんなことを感じながら、
視線の先に、俺も意識を集中させるも
彼はこちらに来る気配もなく、穂乃香自身も
アイツの存在に気付いている感じもなくて。



俺はそのまま、会場内へと足を踏み入れた。






その夜、俺は母と一緒にピアノ・デュオで演奏した。




ピアノを通して繋がりを強く感じられた親子関係。


こんな関係を崩さずにいられるのも、
神楽小母さんが手伝ってくれたから。



だから……真人、もう少し待ってて。



神楽小母さん……真人のことは、
俺がちゃんと考えるから。




どんなに神楽小母さんが、さっき母に紹介されたあの人のことが好きだったのかなんて
俺にはわからないけど今……真人を追い詰めている存在は、あの人だと思うから。



俺は……小母さんを悲しませる形になっても、
真人を守ってみせるよ。