そんな母校で出逢った、先輩たちの温もりを強く感じながら、
僕はこれからの未来を見据えるように前を見つめながら運転していた。



僕が家に帰った時も、自宅にはお義母さんと瞳矢の姿はなく、
和羽だけがキッチンで夕飯を作っていた。


「ただいま。和羽」

「お帰りなさい。
 もうすぐご飯出来るわよ。
 今日はローストビーフとサラダとシチューを作ってるの」


そう言いながら和羽は時折、
キッチンで柔軟をしながらご飯の支度をすすめている。


「美味しそうだね。
 この間、捻った足首は落ち着いた?」


ダンス教室に通いながら、時折舞台にたって踊っている
奥さんの様子も気にかける。


「あっ、足はもう大丈夫。
 疲労骨折とか足捻ったり、ホント右足だけは癖になっちゃってるのかな。
 でもサポーターはめてるし、今は落ち着いてるから。
 今は足首の柔軟を念入りにしなきゃいけないなーって感じてる。

 冬、冬が病院で毎日研修して勉強して大変なのに
 私が大好きなことさせて貰っててごめんね」

「和羽は十分に僕が欲しいものをくれてる。

 たから和羽も僕に遠慮なんてしないで、
 好きなことをやればいいよ。

 仕事が許す限り、僕も和羽の舞台楽しみにしているから」


心から思える言葉を紡ぎながらも、
その時間が暫く、終わりを迎えるかもしれないことを僕は知ってる。

ただ和羽にそれを伝えるのは、
僕ではなくて、瞳矢自身だと思うから。



「あっ、エンジンの音。
 母さん、帰ってみたみたい」


和羽がいったのと同時に、玄関のドアが開いて
二階へと上がって行く足音が聞こえる。


ダイニングのドアを開けて、二階に意識を迎えると
プレイエルの音色が聞こえる。


防音室と言う形を作っていても、
完全に全ての音を遮断することは出来ていない。


ある程度、防音されながらも零れてくる音を追いかけながら
僕はどのタイミングで、瞳矢の元をたずねようか悩んでいた。


和羽が作ったご飯が食卓に並び始め、
部屋に入って泣き崩れてしまったお義母さんを支えるために
その部屋に足を踏み入れる。



『冬生君……どうして瞳矢なのかしら?
 私が代わってあげられたらどんないいか……』


そうやって吐き出される言葉も、
実際に叶えることなんて出来ない。


そんなお義母さんの傍に寄り添いながら、
僕は遠い昔、真人君を思い続けて苦しむ
神楽姉さんのことを思い出していた。



何時だって……
親の想いは変わらないのかもしれない。



お義母さんを泣きたいだけ涙を流させて
ゆっくりと落ち着かせると、僕は和羽の待つ部屋へと向かった。




「冬、お母さんは……?」

「大丈夫。
 話をしたら少し落ち着いたみたい」

「冬……瞳矢は難しい病気なの?」


和羽の言葉に、「後で僕も一緒に瞳矢の病気のことを一緒に聞きたいと思う」っと
先に話された内容を知らないふりして、言葉を続けた。


その後、二階から飛び出してきた瞳矢は、
慌てて外へと飛び出して、暫く帰ってこなかった。


玄関を飛び出す際に『真人』の名前を呼んだ瞳矢。




真人君が来てた?



二日前、多久馬邸での家庭教師をしていた際の
真人の様子を思い出しながら、
僕も慌てて玄関の方へと向かった。


周囲を探し回っていた瞳矢が一人で戻ってくる。


そんな瞳矢を慌てて助手席に乗せて、
僕は夜の街を、真人君を探しながら運転を続けた。





大切な存在を守れるように……
僕自身が、いつもその温もりに守られているように、
僕もまた家族にとっての、真人にとっての、
親友たちにとってのそんな存在でありたい。



そんな思いに駆られた地区大会本選前夜は、
ゆっくりと過ぎていった。