「瞳矢は今どうしたいの?」

「今はコンクールまで指が動いていて欲しい」

「そうだね。

 なら家族皆で瞳矢の指が動くように祈ってようね。
 だから一緒に頑張ろう。
 
 弱音を吐きたくなったら、いつでも僕に甘えていいから。
 お義母さんや和羽には言いにくいこともあるだろうしね。 
 
 瞳矢が挫けそうになる心を僕は精一杯受け止めるから」

「……うん……」


  


その日、僕は瞳矢と話す時間をゆっくりと作った。


大切なコンクールを目前に控えた夜。
瞳矢の心が少しでも穏やかに満たされるように。


翌日、また僕はいつもの日常に戻る。


現実(いま)を精一杯歩き続けること。
その命と正面から向き合うこと。


それが僕に出来る唯一なのかも知れない。


時の歯車はまわり続ける。




秒針が常に時を刻むように……。