院長である恭也小父さんのこと。
瞳矢のこと。

真人君の事、和羽とお義母さんのこと。


『死』に対する僕の心の在り方。



「……変わらないね……君も。
 
 冬……君はどうしたいの?」




そう紡ぐ裕真の声は掠れ声もなくなり、
穏やかに僕を包んでいく。


「……見守りたい……。

 瞳矢は僕にとって大切な弟だから。
 それに真人君だって弟みたいな存在だから」

「なら冬は、冬が好きなようにすればいい。

 瞳矢くんのケアの方は私からも兄に伝えておく。
 指導医の大夢さんにも宜しく伝えておいて。

 天李さんに瞳矢くんの方は任せておいたらいい。
 冬は今は自分と向き合う時間になってるんじゃない?

 そろそろ君自身を許してあげないと」



穏やかな声がゆっくりと浸透していく。

その言葉の力が僕を満たしたとき、
僕の携帯にキャッチが入った。



高雅大夢【こうが ひろむ】


指導医の名前が携帯に表示される。



「今、大夢さんから電話来ました。

 今日は……有難うございます……。

 少し考える時間が出来ました。
 裕真も頑張って。
 
 帰国する日楽しみにしてます」

「年末年始には一時帰国するよ」

「それじゃあ」


慌てて電話を切って深く深呼吸すると
再度、受話ボタンを押す。


「西宮寺、そろそろ気分転換出来たか?
 車なかったから遠出してんだろ。
 
 お前の患者……お前が来なくて
 残念そうにしてたぞー。

 放っておくのか?」



手厳しい中に優しさのある大夢さん独特の話し声が広がる。



「歩(すすむ)くんのお母さんからも手紙を預かった。
 とりあえず、それ受け取りに戻ってこい」


大夢さんの言葉に誘われて再び病院に戻った僕は、
瞳矢と同じ年の今日亡くなった少年からの手紙を受け止る。






ありがとう。






そう綴られた五文字だけの手紙。





何も出来ずに見送った。

ただ……それだけの僕にむけられたその言葉は、
とても柔らかく……とても鋭く……とても暖かかった。


その手紙を握りしめて僕は歩くんが眠っていたベッドへと、
そっと……手を触れる……。


今はその場所に、僕を見て微笑んでくれた
その少年の姿はもうない。