院長である恭也小父さんのこと。
瞳矢のこと。
真人君の事、和羽とお義母さんのこと。
『死』に対する僕の心の在り方。
「……変わらないね……君も。
冬……君はどうしたいの?」
そう紡ぐ裕真の声は掠れ声もなくなり、
穏やかに僕を包んでいく。
「……見守りたい……。
瞳矢は僕にとって大切な弟だから。
それに真人君だって弟みたいな存在だから」
「なら冬は、冬が好きなようにすればいい。
瞳矢くんのケアの方は私からも兄に伝えておく。
指導医の大夢さんにも宜しく伝えておいて。
天李さんに瞳矢くんの方は任せておいたらいい。
冬は今は自分と向き合う時間になってるんじゃない?
そろそろ君自身を許してあげないと」
穏やかな声がゆっくりと浸透していく。
その言葉の力が僕を満たしたとき、
僕の携帯にキャッチが入った。
高雅大夢【こうが ひろむ】
指導医の名前が携帯に表示される。
「今、大夢さんから電話来ました。
今日は……有難うございます……。
少し考える時間が出来ました。
裕真も頑張って。
帰国する日楽しみにしてます」
「年末年始には一時帰国するよ」
「それじゃあ」
慌てて電話を切って深く深呼吸すると
再度、受話ボタンを押す。
「西宮寺、そろそろ気分転換出来たか?
車なかったから遠出してんだろ。
お前の患者……お前が来なくて
残念そうにしてたぞー。
放っておくのか?」
手厳しい中に優しさのある大夢さん独特の話し声が広がる。
「歩(すすむ)くんのお母さんからも手紙を預かった。
とりあえず、それ受け取りに戻ってこい」
大夢さんの言葉に誘われて再び病院に戻った僕は、
瞳矢と同じ年の今日亡くなった少年からの手紙を受け止る。
*
ありがとう。
*
そう綴られた五文字だけの手紙。
何も出来ずに見送った。
ただ……それだけの僕にむけられたその言葉は、
とても柔らかく……とても鋭く……とても暖かかった。
その手紙を握りしめて僕は歩くんが眠っていたベッドへと、
そっと……手を触れる……。
今はその場所に、僕を見て微笑んでくれた
その少年の姿はもうない。